昔ある日 男がひとりやってきて
その岬のどよめく陽のささぬ浜辺に立ってこういった
「この海原ごしに呼びかけて船に警告してやる声がいる。その声を作ってやろう。
これまでにあったどんな時間 、どんな霧にも似合った声を作ってやろう。
たとえば夜ふけてある きみのそばのからっぽのベッド、訪うて人の誰もいない家、また葉の散ってしまった晩秋の木ぎに似合った、そんな音を作ってやろう。
鳴きながら南方へ去る鳥の声、十一月の風や…さみしい浜辺によする波に似た音、そんな音を作ってやろう。
それはあまりにも孤独な音なので、誰もそれを聞きもらすはずはなく、それを耳にしては誰もがひそかに忍び泣きをし、遠くの町で聞けばいっそう我が家が暖かく、なつかしく思われる…そんな音を作ってやろう。
おれは我と我が身を一つの音、一つの機械としてやろう。
そうすれば人はそれを霧笛と呼び、それを聞く人はみな永遠というものの悲しみと生きることのはかなさを知るだろう。
— レイ・ブラッドベリ 「霧笛」 / 萩尾望都版より (via springroller)






